Hurra! Hurra! Hurra!

デンマーク、ドイツ、アジアバックパッカーを経て感じた事や体験談を発信します。また自分の専門である障害者福祉に関連した発信もどんどんしていきます。

災害時の避難において大切なマニュアルとは~肢体不自由の方の移動支援従事者の視点より

先の大雨により、中四国地方を中心に各地甚大な被害が出ています。

 

Twitterを見ていても災害からの避難に関するツイートが飛び交っているのをよく目にします。

そんな中、私がTwitterで見かけたこのお知らせ。

www6.nhk.or.jp

 

NHKハートネット福祉情報総合サイトより、災害時障害者向けのサイト。

災害別の対応と、障害に応じた準備や対応の簡単なマニュアルが各障害項目ごとに載っています。

 

私は障害を持つ方の支援を仕事にしていたのもあり、また前職では災害時対策委員会にも入っており、災害時の行動についてシミュレートする機会が多かったので、

このサイトのマニュアルを見て、どうすればいいのかパッと難なくイメージできました。

 

ただ、そうでない人にとって、具体的に何をすればいいのか、確かに分かりづらい部分もこのマニュアルにあるのかもしれない、と気付かされました。

 

今回、障害者の方が災害から避難するために、支援者及び手助けいただく一般の方に大切にしてほしい事を、マニュアルという観点からお話します。

ここでは、主に肢体不自由の方を対象としてお話したいと思います。

 

 

色々書いてるけどどれが正解!?

「支援したいけどこれではどうすればよいのか分からない」という意見を目にしたのは、この項目を巡っての事です。

www6.nhk.or.jp

 

車椅子ごと持ち上げて3~4人で運ぶのが安全」とありますが、

かたや緊急時には、

担架を用意したり

背負ったり

複数の人で抱えたり

毛布やシーツに乗せて移動

ともここでは書いてあります。

 

これはどれもその通り!!なんです。

 

でも、これだけ色々なやり方があると、

じゃあ結局どーしたらいいの!?どれが一番なんだ!?

と迷ってしまうだろうな、とも思います。

 

加えて、「本人に支援の方法を聞き」とも書いてある。。(これも大正解なんです

確かに何の事前知識もない、肢体不自由の方と接した経験のない人には「???」と混乱してしまうのも無理はないかもしれないですね。

 

肢体不自由とは??

 

では肢体不自由とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか?

 

東京大学バリアフリー支援室

↑東大がとても良くまとめていました!すごい!大学がここまでやってくれるなんて期待してなかった!

 

肢体不自由とは、四肢(上肢・下肢)、体幹(腹筋、背筋、胸筋、足の筋肉を含む胴体の部分)が病気や怪我で損なわれ、長期にわたり歩行や筆記などの日常生活動作に困難がともなう状態をいいます。原因としては、先天性のもの、事故による手足の損傷、あるいは脳や脊髄等の神経に損傷を受けてなるもの、関節等の変形からなるものなどがあります。
一口に肢体不自由といっても、障害の部位や程度によってかなり個人差があります。たとえば、右足に障害がある場合、左半身に障害がある場合、あるいは両足、全身の運動動作が不自由という場合もあります。また障害の程度も、日常生活動作にさほど困難を感じさせない程度から、立ったり歩いたりなどの動作に支障があるため杖や車いすや義足などを必要とする程度、日常動作の多くに介助を要する程度などさまざまです。

東京大学バリアフリー支援室より)

 

さすが東大。私が伝えたい事をシンプルかつ分かりやすくまとめてくれていました。

しかも具体的な状態の記述まで!

 

そうここで言われているように、一口に肢体不自由と言っても、障害の部位や程度により、本人さんがどのような困難を抱えているか、個人差があります。

更に、もし重症心身障害者の方であれば肢体不自由だけでなく、知的障害、視覚障害など、複合的に障害を抱えている場合もあります。寝たきりの方であれば筋力や骨が弱っているために骨折のリスクが高い方もいますし、場合によっては首が座っていない方もおられます。

なので、ある程度の方向性は同じであれど、各々抱えている障害のパターンがそれぞれ違うとも言えるのです。

 

あの書き方では迷うかもしれない…でもね…?

 じゃあハートネットのマニュアルの書き方はどうなんだという話ですが、私はあれで良いと思います。

読みやすい文字の大きさと親しみのあるフォントとデザイン。読み仮名をふって、シンプルに且つ大事なポイントを付いていると思います。

 

ただ、「どんな立場の人にでも伝わるように」且つマイルドな表現を心がけているために、「○○すべし!!」「これだけは絶対に外すな!」のような強いメッセージ性は確かに欠いています。

 

じゃあそれが悪い事なのかというと、私はそんなことないと思います。

なぜなら、特に災害時において、「絶対」を信用し過ぎることほど自分の身を滅ぼしかねない事は無いと思うからです。

 

 行動の指標となるべくして存在するのがマニュアルです。

しかし、マニュアル脳になったが故に思考停止し、想像力を欠いたまま行動を取っていては想定外の事態に対処できません。想定を超えた事態が発生し得るのが大災害です。

もちろん行動の大筋はマニュアルに沿うべきです。加えて、目の前の状況を見て判断しその場に合わせて臨機応変な動きを取れる力は、災害時に生き残るために必要な力なのです。

 

だから、「○○はすべき!」のように、「絶対マニュアル」は逆に危険です。

ハートネットのように、ある程度のアドバイスを与え、あとは各々が考えたりググったりする余地を残す程度のマニュアルがこの場合は丁度良いのです。

災害は電化製品じゃなくて完全にナマモノだからね。

 

だから、障害を持たれた方の手助けをしていただく際にも、「これが絶対」という既存のマニュアルに頼る方法を取るのではなく、「目の前の方に向き合う事」「その方独自の絶対のマニュアル」を入手してほしいのです。 

ハートネットが「本人に支援の方法を聞き」と書いてあるのはそういう事なのです。

 

胸に秘めておいてほしい大切なマニュアル。

ここで1つ、これを読んでくださってる方に、貴方のこれまでの経験の有無に関わらず、どうしても伝えたい事を伝えさせてください。

 

私は以前重心障害者の方の施設で現場スタッフをしていました。

そして私の勤務地は大阪市

東日本大震災以降から、南海大震災の発生を危惧する声が高まってきました。

南海大震災が起これば、大阪市の広域が津波で浸水する事が予想されます。

私の勤務していた施設は、肢体不自由・寝たきりの方が多くおられました。

もし南海大震災のような大規模震災が起こった際には、地震から利用者さん達の身を守り、津波から何が何でも高台に避難しなければなりません。

 

このような背景があり、職場で緊急時の際の避難行動について何度も議論しました。

避難訓練も何度も行いました。利用者の方をスタッフ総出で車椅子に乗せ、近隣の指定避難所まで移動する、というものです。

このように普段から実際にシミュレートしたり、取るべき行動を予行演習しておく事で、いざという時にやるべき行動にパッと移れます。

災害が起こった時こそ、冷静でいる事が最も大切です。(そういう点で、さっき言った事とはやや矛盾してしまいますが、行動マニュアルは必要です。)

 

が、何度も言いますが、災害時は何が起こるか分かりません。

想定外の事も起こるかもしれません。

でも、どんな状況になっても忘れないでほしいのが、「生き残ること」です。

 

ここでは大規模震災で津波や建物倒壊などの危険から一刻も避難するという想定でお話していますが、 例えば体幹障害で寝たきりの方がいる、どうやって移動したらいいのか分からない。

そんな中、津波が迫ってきた。となると、もう迷ってる暇はないですよね。

引きずってでも、何が何でも避難させなければなりません。

 

例えば、毛布に乗せて引きずる過程で怪我をさせてしまうかもしれない。

でも、怪我は後から回復できます。

しかし、人命は失ったら二度と返ってきません。

 

各所で配布されてるマニュアルやネット上にに色んな事が書いてあったり、色んな人が色んな事を言ってきたりすると思います。

でも、「できるだけ多くで生き残る」という確固たるマニュアルを胸に抱いて然るべき行動をとれば、大外れになることは無いのではないかと思います。

 

でも、過去の災害事例や新しい役立ち情報に敏感になり、普段から取るべき行動を頭の中でシミュレートしておいた上で初めて、その確固たるマニュアルは生きてくると私は思います。

 

絶対のマニュアルは存在しないからこそ、胸に秘めた確固たるマニュアルを元に各々の行動指標を作っていってほしい。

そして、「できるだけ多くで生き残る」という思いを胸に、移動に困難を抱えた人に手を伸ばす事のできる心づもりを可能であれば持ち合わせてほしいと私は願います。

 

 

まとめますと、

・肢体不自由の方には各々独自の身体的困難があり、絶対的マニュアルは存在しない。だからこそ、有事の際は対話を通じてニーズを聞きだしてほしい。

・いざという時に冷静な行動をとれるように、普段から情報に敏感になり、取るべき行動をシミュレートしておくこと。

・一刻を争う事態では、多少荒っぽいが「大勢で生き残る事」を最優先として行動をとる。

 

です!!

大災害が起こった今だからこそ、幸運な事に平穏な日常を乱されずに生きている事ができる私たちにできることは、そこから教訓を得る事。

他人事ととらえず、「自分ならどうするか」 と一考する事が、誰かの命を、そしてあなた自身の命を救う事に繋がるかもしれません。